北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

西澤医師-6


「聴覚と音声の生理学シリーズ」

第6章 破裂音、破擦音、摩擦音について



発話において音源となるのは、声門でつくられる原音だけではないこと、唇、舌などでつくられる気流雑音が、パ・タ・カ行サ・ハ行などの最初にくる音(破裂音、摩擦音、破擦音)となるのだ、というお話しをしました。今回は、これらの音について少し詳しく述べます。

破裂音、破擦音、摩擦音の種類と、発音の特徴、音としての性質を表にまとめました。「パンダ」の最初に来る「パ」という音を例にとってみると、これを発音の記号で書けば/pa/となり、/p/の部分(子音)と/a/の部分(母音)が合わさって「パ」という「音節」を作っているのです。(ちなみに、日本語の文字表記は「子音十母音」でつくられる「一音節」をひとつのカナ文字で表すというおおまかな規則がありますので、音の成り立ちを整理して考えるには大変便利です。)

さて、「パ」の子音部分/p/の音に注目してみます。この音は「無声破裂音」に分類される音です。話をしているとき肺から唇に至る気流の通路(気道)には呼気が流れています。「破裂音」を発音するときは、口の中で気道に一時的なストップをかけます。そうしておいてストップを急に開放すると、短時間に急に空気が流れますので、雑音が作られます。/p/については、閉鎖と開放は上下の唇で行われます。「タテト」の子音部分/t/では舌先と歯茎のあたり、「カキクケコ」の子音部分/k/では舌の奥の方と口蓋の後ろ半分(軟口蓋)が音を作る場所になります。気流にストップをかけてから急に放すやり方で雑音を作る子音を破裂音(閉鎖音)といいます。/p/に相当する雑音に続いて母音/a/が発せられ、破裂音を含む音節「パ」が作られます。
「さかな」の最初に来る「サ」は、発音の記号では曲となり子音部分は/sa/です。この音は「無声摩擦音」と分類されます。音を作る場所は舌先と歯茎の間です。
ここで気道が狭くなりますが、破裂音の様にストップが作られるのではありません。持続的に気流を通す細い道が出来ます。気道がとても狭くなるので、作られる音は持続的な気流雑音になります。破裂音の場合と同じように/s/に続いて母音/a/が発せられ、摩擦音を含む音節「サ」が作られます。

「ちょうちょ」の最初にくる「チ」の音は、発音の/t∫i/記号であり「無声破擦音」と分類されます。音を作る場所は/s/と同じく舌先と歯茎の間ですが、一旦気流をストップさせる動作があることが/s/と異なります。つまり、気流の遮断・破裂をまず行ったあとに、気道の狭めによる摩擦雑音を続けるのです。

破裂音、摩擦音、破擦音について音の作り方の特徴をまとめると以上のようになりますが、音の聞こえかたの特徴については次のようになります。

破裂音では、閉鎖が作られている間、雑音はありません。閉鎖が開放されたときに爆発的な短時間の雑音が発生して、後続の母音に繋がります。

摩擦音では、気道の狭めを通過する持続的な雑音が特徴です。

破擦音では、破裂による爆発的な雑音のあとに持続的な摩擦雑音が続きます。

いずれの種類の音も、あとに続く母音と一組で「音節」を作ります。雑音の音源が口の中にあるのに対して、母音の音源は声帯にあります。つまり、これら三種類の子音を含む音節では、口腔音源と声帯音源を組み合わせていることになります。

次に、有声音と無声音の問題を考えてみます。
「パンダ」の「パ」と「バンド」の「バ」、発音記号で表すと/pa/と/ba/になります。この二つの音の違いは、口腔音源(雑音)と声帯音源(声)が開始あるいは停止する時間の相互関係によっています。「パ」の発話のときには、気道閉鎖の区間には声帯の振動もストップし、全くの無音区間が作られます。声帯音源の開始は、閉鎖が開放されて破裂雑音が起こってからあとになるのが普通です。「バ」の場合は、破裂雑音の前、気道閉鎖区間の間に声帯音源が発音されることが多く、破裂雑音のあとに開始する場合も「パ」の場合よりずっと短い時間で声帯音が始まります。
これらの出し分けについては、無喉頭音声の特殊性と絡んで、いろいろな問題があります。

この次にはそれをお話しすることにします。