北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

犬山教授-5


「頭頸部がんシリーズ」

5、中咽頭癌



頭頸部がんにおける中咽頭がんの発生頻度は1962〜1974年までのデータでは6番目でしたが、最近は増加傾向にあるように思います。中咽頭は口腔の奥で、口蓋扁桃、軟口蓋、口蓋弓、口蓋垂(のどちんこ)、咽頭後壁(口を開けた時の一番後ろの壁)、それに舌根(舌の付け根)などが含まれます(図)。

発がん要因としては、やはり過度の喫煙と飲酒があげられます。そこで、最近問題になっているのが重複がんです。例えば舌がんと中咽頭がん、中咽頭がんと喉頭がん、中咽頭がんと食道がんなどです。これらはいずれも過度の喫煙と飲酒が関与しています。したがって転移ではありません。最近、北大の耳鼻咽喉科で調べたところ、中咽頭がん患者の36%に重複がんが認められています。その原因はかつては第1がんで亡くなる方が多かったのですが、最近は治療方法が進歩したこと、がんそのものの増加、診断技術の進歩、平均寿命の延長などが関与しているものと考えます。したがって最近は中咽頭がんの患者に対して食道の内視鏡検査を行いますと、非常に初期のがんがみつかり、内視鏡下の切除で治ってしまう例もあります。

さて、中咽頭がんの症状ですが、初期にはほとんど症状はありませんが、やがて咽頭異物感、咽頭痛、嚥下痛(飲み込む時に痛い)などが起こります。また中には扁桃腺が腫れていると訴える人もいます。また中咽頭がんは頸部のリンパ節に転移しやすいので、初めの症状が頸部腫瘤であることも少なくありません。

上記のような症状を経験した場合は、是非耳鼻咽喉科やがん専門病院(頭頸科と表示している病院も少なくありません)を受診して下さい(とくに過度の喫煙者および飲酒者)。

検査と診断ですが、視診や触診を行い、さらに舌根なども検査します。疑わしい場合は内視鏡をはじめCTやMRIなどの画像診断も行います。また病巣がかなりはっきりしている場合は病巣から一部、組織を採取し顕微鏡下に組織検査をします。

さて、治療ですが腫瘍の大きさが2p以下の場合で頸部に腫瘤を触れない場合は放射線治療と化学療法の同時併用を行います。また腫瘍が2pを越えるが4p以下の場合は前述の治療を行い、腫瘍の縮小効果がよい場合はそのまま継続し、あまり効果が認められない場合は手術に移行することが多いのが実状です。しかし、腫瘍が4pを越えている場合や、周辺の骨や筋肉などに浸潤している場合は拡大切除が必要であり、し
かも頸部に腫瘤を認める場合は原則として頸部リンパ節の郭清手術も併施します。そのため、手術範囲がかなり大きくなる場合は、患者さんの皮膚、筋肉、骨などを採取し欠損部を再建することになります。

さて、手術後のことですが、放射線治療を行った場合は味覚異常や口腔内の乾燥感が残りますので、食餌の内容を配慮する必要があります。また手術後に嚥下障害(食物を飲み込みにくい、むせるなど)が生じることがあります。誤嚥がおこらないように、ゆっくり食餌をとります。嚥下障害が著明な時は、リハビリや、鼻から管を入れて、栄養を補給したり、血管内にチューブを留置し、これを介して生理食塩水、糖液、電解質などを輸液します。

この際、喫煙は是非止めて、飲酒は過量にならないようにし、新鮮な野菜、海草類、魚の油、果物、緑茶を十分に摂取することが、2次がん発生の予防にも繋がるものと考えます。