北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

医療大学31


北鈴会50周年によせて


北海道医療大学心理科学部言語聴覚療法学科

教授 西澤典子



北鈴会の創立50周年を心よりお祝い申し上げます。
私は、平成3年に北海道大学で音声の障害を担当するようになってから、皆様とお付き合いをさせていただいております。

私の専門領域は、耳鼻咽喉科学の中でもリハビリテーションに関するもので、本来、喉頭がんの術後患者さんと直接にお会いする機会はなかったのですが、当時教室を主宰していた犬山征夫教授の指導により、発声教室に伺うようになりました。犬山教授が私に与えた課題は次のようなものでした。

「耳鼻科医はがんを治療して患者さんの命を救うのが第一の仕事と考えており、進行がんの治療で喉頭を摘出することはやむを得ないというところで責任を放棄しているのではないか。命を救うためとはいえ、患者さんの発声機能を失わせるような医療行為を行ったからには、その後の発声機能回復まで、医療がリハビリテーションにかかわることが必要ではないか。そのために何ができるか、研究してみなさい。」

犬山教授の言葉は、今に至るまで私の研究の道しるべ、となっております。

それから10年ほどの間は、北鈴会会員の皆様のご協力をいただきながら、食道発声、シャント発声の仕組みを科学的に解明することに全力を注ぎました。当時、ご自分ののどを貸してくださって、一緒に研究をしてくださった会員の皆様のおかげで、食道発声で最初の難関とされる空気摂取の仕組みが、手術後に残された、のどの筋肉の再訓練で成り立っていることが証明されました。

そうするうちに、私自身も食道発声のコツのようなものがわかり始め、術後人院の期間中に患者さんと一緒に食道発声の訓練を行ってみることができるようになりました。ここでわかったことは、シャント手術を受けた場合、シャント発声の練習と一緒に食道発声の練習を始めると、上達が非常に速いということです。場合によりますが、ある患者さんは、シャント発声のコツをそのまま食道発声に応用できたため、術後1か月で北鈴会にご紹介した時には、すでに上級レベルの食道発声者となっており、「北大が新しい音声回復手術法を開発したのではないか」と、会からお問い合わせをいただいたほどでした。

また、大学の中にも、喉頭摘出後の音声リハビリテーシヨンに與味を持ってくれる同僚が次々とあらわれ、喉頭領域の研究にも寄与することができたと思っております。

北海道医療大学に移ってからは、直接患者さんのお世話をすることはなくなりましたが、今度は、食道発声用発声支援装置の開発という新しいプロジェクトに取り組むことができました。この研究については、現在本学の前田助教が引き継いで、勉強させていただいております。

私と皆様のつながりは、振り返ってみると本当に長い間になります。私が医師として現役でいられるのは、もうあまり長いことではありませんが、これからも、患者さんに教えていただきながら、リハビリテーションの勉強を続けていきたく考えております。

皆様のご健康と会の発展を心よりお祈りいたします。