北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

電制須貝31


「北鈴会の皆様へ」


株式会社 電制取締役開発本部長 須貝保徳



北鈴会の協力のもと完成した国産初の電気式人工喉頭「ユアトーン」




北鈴会の皆様には、いつも大変お世話になっております。また、弊社製品の「ユアトーンー」を多くの方にご利用いただいており、誠にありがとうございます。

私が最初に北鈴会の発声教室にお伺いしてから、もう20年あまりの月日になっています。今思うと、北鈴会の皆様には、本当に色々なことを教わりながら、弊社の電気式人工喉頭が完成したのだと改めて感じています。私自身、最初から電気式人工喉頭というものの存在を知っていた訳ではありません。平成4年に北海道立工業試験場(現在、道総研工業試験場)にて開催された成果発表会で橋場研究員によって発表された「音声の自然性を備えた電気式人工喉頭の開発」という研究内容を聞き、世の中にこのような装置があるということを知り、とても強い興味を持ちました。

なぜ、私がこの電気式人工喉頭に強い與味を持ったかと言えば、当時は、弊社において自社で保有する電力関連製品や制御機器等で培ったエレクトロニクス技術を他分野に応用できないかと情報収集していた時期であったと言うこともありますが、それ以上に、まだ私が学生の時に、母方の伯母が病気で声帯を失い、お見舞いに行った時に筆談をしていたことが記憶に残っていたということの方が大きかったように思います。もし、あの時にこの様な装置があることを知っていれば、筆談でないコミュニケーションが取れたかもしれない。

そう考えながら聞いていた発表内容で、その当時の電気式人工喉頭には様々な課題が残されており、しかも、すべて外国からの輸入に頼っているのが現状であることを知り、何とか国産の電気式人工喉頭として実用化できないものかと思ったものでした。
その後、長年電気式人工喉頭の基礎研究を実施している北海道大学の伊福部教授(現在、東京大学高齢社会総合研究機構)をご紹介いただき、産学官の連携によって国産初の竜気式人工喉頭の開発がスタートしました。最初は全くの手探りの状態で電気・電子関係のエンジニアとしてだけの感性で試作を行い、完成した試作装置を持参して冒頭に紹介しましたようにかれこれ20年ほど前ですが、北鈴会の発声教室を訪問しました。

今にして思えば、ずいぶんヘンテコな試作装置だったと記憶していますが、それに加え、仰々しい測定器を持参した私たちを北鈴会の皆様は、心よく受け人れて下さり、いやな顔ひとつせず試作装置を試していただきました。
残念なことに最初に持ち込んだ試作装置で試していただいた結果は散々なものでしたが、そんな中でも良かった点や良くなかった点など多くのアドバイスをいただき、それらのアドバイスがまた次の試作装置に反映させるという形で、それ以来、たびたび北鈴会の発声教室を訪れ、時には宿泊発声訓練の場所まで押しかけ、試作装置を試していただくこともありました。試作装置を試していただいた時に、意図していたようにうまく発声できた時などは、一緒に喜んだりもさせていただきました。

そうして平成10年4月、国産初の電気式人工喉頭「ユアトーン」が完成、まさに北鈴会の皆様と一緒に作り上げていったと言ってもよい製品です。この「ユアトーン」は、発売後、多くの反響をいただき、雑誌や新聞、テレビなどにも多く取りトげられ、時には北鈴会の発声教室にもメディアの取材が入ったりしたこともあったと思います。そのおかげもあってか、第1回北海道中小企業新製品等開発賞最優秀賞をはじめ、グッドデザイン賞など、数多くの賞をいただきました。

製品化後も、北鈴会の発声教室を訪問させていただくたびに使用上の課題や製品の改良点などを含め、様々な意見交換を継続させていただきました。弊杜としてもそれらの意見や要望にお応えできるように改善を含めた製品の改良に一歩一歩ではありますが着手し、再び試作を行い、その試作装置を北鈴会の皆様に試していただき、その結果をまた試作装置にフィードバックするという活動を継続していました。
その結果、平成21年6月に「ユァトーン・ゆらぎ」としてフルモデルチェンジを実施、さらに改善を加え、平成25年2月には「ユアトーン・UB」の発売も開始しました。この製品も北鈴会の皆様のご協力なくしては完成できなかったと思っております。

そして、この様に電気式人工喉頭の実用化に取り組んできたことが評価され、平成23年11月には北海道新聞文化賞(経済部門)を受賞するという嬉しい出来事もありました。この受賞も北鈴会の皆様のご協力があってこそだと思っております。

北鈴会はこの度、創立50周年を迎えられたとのこと、誠におめでとうございます。半世紀もの長い期間、活動を継続されるということは、ひとえに北鈴会の皆様の熱意と努力があってこそと感じています。
その皆様にご協力いただき完成した国産初の電気式人工喉頭「ユアトーン」も販売開始から数えて16年が経過しましたが、私も北鈴会の皆様の熱意と努力を見習い、「ユアトーン」の継続的な改良に着手して行きます。
これからも北鈴会の皆様とは、よい協力関係で弊社製品へのご意見や改良点のアドバイスを今まで以上にいただき、新たな試作装置を試していただくこともあると思いますが、より良いコミュニケーションを実現するツールとして、皆様が安心してご利用していただけるように歩みを止めることなく取り組んで行きたいと思っております。どうぞ、これからもご協力並びにご指導よろしくお願い致します。

最後に北鈴会の益々の発展と会員の皆様のご健康とご健勝を心よりお祈り申し上げます。