北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会
西澤医師-2
「聴覚と音声の生理学シリーズ」
第2章 声の出る仕組み
前稿で、音とはなにか、という問題をとりあげました。音とはつまり「気圧の変化の繰り返し」ということが、結論でした。
私たちが話をする時には、声を出します。喉頭音声、無喉頭音声の如何に関わらず、声は、私たちの体内で作られる音=周期的な気圧変化の繰り返しです。この声の出る仕組みを考えてみましょう。
声を出すということは、ハーモニカやファゴツトなどのリードのついた笛を鳴らす動作とよく似ています。このような笛が音を出すためには、リード、つまり振動源となる構造と、その間を通過する気流が必要です。喉頭音声ではこれらは、声帯と、呼気に当たります。
無喉頭音声では、表1の様なものになります。喉頭音声、ならびに表にあげた三種類の無喉頭音声について、リードが気流で鳴る仕組みは、等しく、次のように説明できます。
リードとリードの間に細い隙間を作る⇒隙問の間に気流を流す⇒気流に引き寄せられるようにリードとリードがくっついて、隙間が閉じる⇒気流が止まる⇒阻止された気流が圧力を高め、リードとリードの間を押し分けて流れを再開する
これが繰り返し起こることによって、気圧の変化を伴った波が、繰り返し作られるのです。隙間に気流が流れたとき、リードが内側に引き寄せられる現象は、「ベルヌーイ」効果と言われます。ひと言で言うと「早い気流のあるところにはそこへ引き込むような力が発生する」ということです。たとえば、線路近くで電車の通過を待つと、後ろから電車に引き込まれるような風を感じます。これが、ベルヌーイ効果です。
さて、喉頭音声では、声帯という二枚のリードが、気管の入り口のところで音を作っていますが、食道音声やシャント音声では、喉頭音声に非常によく似た構造が、再建された咽頭と食道の移行部に作られます。それは、前後に狭めをもった粘膜の隙間であり、新声門と呼ばれます。食道からの逆流であれ、シャントを介した呼気流であれ、新声門の間を気流が通過すれば、喉頭音声と全く同じように、気圧の変化を伴った波(食道原音)を作ることが出来ます。
これらのことからわかるように、無喉頭音声でも、喉頭音声でも、「発声する」ためには、音源となる構造とともに、気流の生成がとても重要な要件となっております。そこで次回は「呼吸の仕組み」について考えてゆこうと思います。
声帯振動の仕組み
@ 狭い声帯の間を気流が通る。ベルヌーイ効果により、気圧が下がり、左右の声帯が引き寄せられる。
A 気圧の低い気流が通過したあとに、声帯が閉じて気流がとまる。ベルヌーイ効果はなくなる。声帯の下には気圧
の高い場所が出来る。
B 声帯の下の気圧上昇によって、左右の声帯が吹き飛ばされてまた隙間ができ、気流が復活する。結局気流の中に
気圧の高い部分と低い部分が交互にうまれることになる。 これは「音」である。