北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

犬山教授-4


「頭頸部がんシリーズ」

4、上咽頭がん


上咽頭という場所は、咽頭の一番上の部分にあたります。具体的には鼻の孔の奥の突き当たりの部分です(図)。この部には小児ではアデノィドがあります。また上咽頭の左右には耳管(中耳腔と咽頭を結ぶ管)の開口部(耳管咽頭口)があり、気圧の調節に関与しています。飛行機に乗った時、上昇する時はあまり感じませんが、下りる時、耳が塞がる感じがしたり、聞こえが悪くなります。この時、あくびをすると管が開いて聞こえがよくなります。しかし、風邪をひいている時などは、管が腫れて開かないため耳痛を感じたり、中耳炎を起こすこともあります。

さて、上咽頭癌はわが国ではそれほど発生頻度は高くなく、大体欧米と同じ頻度です。しかし、中国の南部、香港、台湾、シンガポールなどではその発生頻度が高いことが知られています。この病気の原因としてはEBウイルスが関与していることが知られています。
このウイルスは中央アフリカに多いバーキットリンパ腫という病気からEpstein(エプスタイン)とBarr『(バー)という研究者により発見されました。このウイルスはまた伝染性単核症という病気の原因にもなっていますし、また最近の知見では胃癌との関係も知られています。

上咽頭という部位はかつては、大変観察しにくい場所でしたのでフランス語ではcavuminconnu(未知の腔)とも呼ばれていました。したがって早期発見が困難な疾患でした。しかし、最近はファイバースコープなどの内視鏡の進歩により上咽頭の観察は非常に容易になりました。

この病気の初発症状ですが、難聴が最も多いようです。それは先程述べましたように腫瘍が耳管の開口部に進んで管を塞いでしまうからです。またこの病気は頸部のリンパ節にも転移しやすいのが特徴です。とくに耳の下部のリンパ節がもっとも侵されやすい特徴を持っています。また上咽頭は丁度頭蓋底でもあるため腫瘍が容易に頭蓋内に進展します。そのため脳神経が障害され易く、片頭痛をはじめ、眼球運動障害のために複視(物が二重にみえる)などの症状がでたり、声が嗅れたりします。また鼻をかんだ時に鼻汁に血が混じったりすることもあります。

診断法としては内視鏡検査を始め、頸部のリンパ節の触診、CTやMRIなどの画像診断、そして病巣部から一部組織を取って調べる生検が必要です。

治療法ですが、基本的には放射線治療が主体になります。その理由は上咽頭という部位は頭蓋底とも接しており、なかなか手術が困難だからです。幸い上咽頭がんは放射線が大変よく効きます。さらに最近では放射線治療に化学療法を併用する治療法が主体になっています。しかし、不幸にして再発した場合は頭蓋底手術や頸部に対してはリンパ節の郭清術が必要になることもあります。

上咽頭がんは口腔がん、喉頭がん、下咽頭がんなどと違って発生原因として喫煙や飲酒はあまり関係がないので、逆に予防という点では困難な疾患です。すでに述べましたように、この疾患の原因としてEBウイルスをあげましたが、これだけではなく、植物や食物などの因子もあるようですが、まだ十分解明されていません。

したがって現段階では何といっても早期発見、早期治療がきわめて重要であります。