北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

倉本医師32


「北鈴会の皆様へ」


市立旭川病院耳鼻咽喉科

医長 倉本倫之助



 喉頭全摘出術を受けた方は、その後の気管孔のケアが非常に重要なのは言うまでもありません。鼻や口で加湿されていた空気が、喉頭全摘出術後には直接、気管から肺に入るため、湿度が不足し埃などが入りやすくなります。その刺激により痰が硬くなり量も増えます。特に手術を受けて間もない頃は、気管孔による呼吸になれておらず、咳込みや痰の増加に悩まされることが少なくありません。それらは術後、数ヶ月から1年程度の経過で自然に改善すると言われていますが、個人差があります。特に北海道では乾燥しやすい冬の時期は、冷たい外気が気管や肺を刺激するため、粘性の痰が増えるので注意が必要です。乾燥がすすむとひどい場合は、気管粘膜が傷つき出血することもあります。自宅では加湿器などで十分な加湿をしていただき、気管孔の乾燥を予防することが必要です。気管孔エプロンは湿度や温度を保ち、塵埃を防ぐ役割があり喉頭全摘出術を受けた方には非常に大切なものです。その他にも気管孔の乾燥を防ぐためのツールとして自己加温加湿フィルター(HMEカセッ卜)というものがあります。気管孔に直接取り付けていただくもので吸気を加温加湿する役目があります。このフィルターを使用することで、呼吸によって気管孔を通して失われる気道内の湿度の60%程度が保持されるとされています。
これにより咳や痰が減少し安眠を得やすいと言われています。また、数週間終日使用することで呼吸抵抗を回復させ呼吸機能を向上させると言われているため、肺のリハビリテーション目的で使用されることもあります。気管孔エプロンを使用しても乾燥により咳や痰が多い方などには非常に有用なツールと思いますが、保険適応が認められていないため、患者さん個人に購入していただく必要があります。衛生面から1日毎に交換する必要があるため、毎日使用すると月に3万円程度の負担となってしまうのが難点だと思われます。