北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

熊井医師32


(専門医からのメッセージ)




無喉頭と舌下免疫療


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座臨床指導教授
医療法人社団くまいクリニック
理事長・院長 熊井 惠美


 北海道の花粉症は雪解けと共に始まり、6月の始めには、ようやくシラカンバの花粉飛散が終わりを告げ、イネ科を代表とする夏草の花粉症が続いています。酪農大国、北海道を支える牧草が、カモガヤ、チモシーなどのイネ科なので、酪農家で花粉症の方は、草刈時、暑いのにメガネ、マスクなどの花粉侵入防御をきちんとしなければ相当厳しい季節になるようです。花粉症を含めたアレルギー性鼻炎の治療には、大きく分けて@薬を使って症状を和らげる薬物療法、A手術療法、B免疫療法の3つがあります。@は、その方にあった抗アレルギー剤などの内服、鼻用噴霧剤、目薬などを、症状が出てから投与したり、症状の出る前から処方したりします(初期治療)。A手術療法は、薬物治療が無効例や薬を使用できない場合(肝障害・妊産婦・授乳など)に行います。鼻腔形態を整える手術、アレルギー反応の場である鼻腔粘膜を焼灼する手術、鼻腔粘膜減量手術、鼻腔粘膜に分布する神経切断手術など、病態の程度により手術方法を決めます。即免疫療法は、減感作療法と呼ばれ、アレルギー性鼻炎の原因(抗原)物質を、本来の侵入経路とは異なる所から少量ずつ、濃度と量を増やしながら体内に投与し、抗原特異的抗体を増加させ、アレルギー反応を抑えようとする方法です。従来から、皮下に抗原エキスを注射する方法が行われてきました。週2回から始め、濃度を増やし、一定量に達したら、投与期間を延ばしていきます。その為、頻繁に通院する必要がある事と、反応効果が現れるまで長期間かがるため、現時点では症例数が減少してきています。個人差はありますが、獲得した効果は、年単位で持続しますので、時間的な余裕があれば、有効な治療法です。昨年から皮下注射に変わり、舌の下に抗原エキスを入れ2分間保持した後、飲みこむか、口外に出す舌下免疫(減感作)療法ができるようになりました。今はスギ花粉症に対する抗原エキスのみですが、秋からは(ウスダストの大半を占めるダユ抗原エキスでもできるようになります。口の中が少しかゆくなる人も極少数はいますが、他の副作用も少なく、家庭でも安全にできる抗原特異的減感作療法で、効果が期待されます。根本的に症状が改善される症例は、それほど多くは無いと思われますが、体質改善という意味では意義かおり、薬物療法の減量も期待できます。喘息がある方には適用が難しく、舌下投与による副作用で喘息発作を起こす可能性があるので要注意です。

 喉頭を摘出された方で、アレルギー性鼻炎や花粉症のある方には有効な治療法のひとっです。喘息の副作用の起こる確率は低いと思われます。初回投与時、30分間後に医師の診察が必要ですが、その後は、自宅で用法に従い漸次増量・維持投与を継続します。抗原エキスを舌下に投与後、飲み込んでも副作用である喘息の発生は極端に少ないと予想されるので、基本治療として行う価値があると考えています。

 もちろん、花粉飛散時期には、自己防衛手段として、外出時のメガネ、マスク(気管孔用エプロン)の着用、花粉が着きにくい服装を心がけ、帰宅時にはシャワーで花粉を洗い流し、部屋着に着替えて、花粉の室内への侵入を防ぐ事が大切です。症状により異なりますが、その方に合った必要十分な薬物療法と、薬物効果に応じて外来でできる鼻内レーザー手術などを加え、1年を通じて、健やかに、爽快に生活していただければ嬉しい限りです。

 今年、我が家の家庭菜園では新たな試みを始めました。ジャガイモを片隅に押しやり、サツマイモ(鹿児島ではカライモ)の苗を植えました。「関東859」と「コガネセンガン」を交配した関東で人気かおる紅あずま(ペニアズマ)という品種で、茨城県や千葉県で栽培されています。寒い北海道の旭川で実るかどうか半信半疑ですが、何とか苗は根づいたようです。ジャガイモのように春に植えたら秋までほったらかしの、「ほっとけ農法」が自慢でしたが、今回だけは少し小まめに、面倒をみようと考えています。そのためには少し早起きしなければならず、健康維持に良いと、家人の評判は上々です。

 さてさて、どうなることやら……。