北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

北大32


喉頭がんの治療


北海道大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頚部外科学分野
教授 福田  諭


 今回は、「最近の喉頭がんの手術法の傾向について」というご依頼がありましたので、そのテーマを中心に書かせて頂きます。
 以前にも書きましたが、喉頭全摘術は1873年ウィーン大学のBillroth教授によって初めて行われ以来工40年が経過しました。進行喉頭癌に対する外科的標準治療として今でも行われている術式です。二次的音声獲得術が発達したものの喉頭全摘による声帯喪失、永久気管孔、鼻腔粘膜の萎縮・嗅覚障害などの機能障害もあり、全摘の根治性を維持した機能的に低侵襲な喉頭温存手術が注目されています。

 今年の5月中旬に日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会(東京)かおり、パネルディスカッション「頭頚部癌治療に対する低侵襲治療の新展開」の司会を務めさせて頂きました。内容は「喉頭機能温存手術(北里大学・中山明仁准教授)」、「経口的咽喉頭癌切除術(防衛医大・塩谷彰浩教授)」、「化学療法の進歩(横浜市大・折舘伸彦教授(前・北大准教授))、「放射線治療(筑波大・石川 仁准教授)であり、最新の知見に関して講演と議論が行われました。喉頭機能温存手術ですが1994年に犬山征夫名誉教授が札幌で第18回日本頭頚部腫瘍学会を開催された際の招待講演で、仏グスタフールーシーがん研究所頭頸科のリュボワンスキー教授が、喉頭亜全摘術198例の成績を講演されました。これ以降日本でも徐々に広がり現在では中山先生が多数例の経験をお持ちで、100例近くの経験から現在の処、亜全摘の殼も良い適応は深部型T2と限局型T3である旨結論されました。塩谷教授は経口的な手術‐拡張型直達喉頭鏡、硬性ビデオ内視鏡、腹腔鏡用銀子などを組み合わせたラリンゴマイクロサージェリーの発展型術式と言えるTOVS−について述べられ声門上・下咽頭のTI。T2。一部のT3病変を対象に経口的に頚部外切開を加えることのない低侵襲治療につき言及されました。両先生の術式を含め、討論では術後の音声の質、誤嘸、生存率など議論がありました。適応と限界に議論の余地は残りますが、喉頭癌特にT3の治療戦略上ひとつの選択枝にはなってきたと思われます。

 その他、経口的ロボット手術、化学放射線療法、分子標的薬、放射線治療そのものの進歩(重粒子線、陽子線、動体追跡)などについても意見が交わされました。医工学を含む時代の進歩により今後ますます低侵襲治療・個別化治療をキーワードとした治療の流れになっていくものと思われますが、一方で真の意味での機能温存(食事時間、外食可能かどうか、誤嘸など)、晩期副反応、クオリティーオブーサーバイバル(キャンサー・サーバイバー)、長期生存率などについても充分に配慮されなければなりません。

 以上簡単ですが「最近の喉頭がんの手術法の傾向について」につき、今年の日本耳鼻総会での話題を中心に記させて頂きました。

 最後になりますが、北鈴会の皆様方の益々のご健康、ご活躍を祈念いたしております。