北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

熊井医師36


食物アレルギー・OASについて


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座臨床指導教授
医療法人社団くまいクリニック
理事長・院長 熊井 惠美


耳鼻咽喉科・頭頸部外科は、頸から上の良性・悪性腫瘍(舌癌・上顎癌・咽頭癌・喉頭癌・甲状腺癌など)を診断・治療するばかりではなく、いくつかの感覚器(聴覚、平衡感覚、味覚、嗅覚など)の疾患も守備範囲です。これらの感覚器は、年齢とともに次第に機能が衰えてくるのは自然の摂理です。耳が遠い、聞き取りにくい、フラフラめまいがする、味が分かりにくい、匂いが鈍くなるなどが起こってきますが、その中で気を付けなければならないのは、認知症の初期症状が、混ざっている事です。認知症の危険因子は、難聴、高血圧、肥満、うつ状態、運動不足、社会的孤立、糖尿病などですが、嗅覚障害が、認知症(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症)やパーキンソン病の早期診断・発症予測マーカーとして、最近、注目されています。嗅覚は他の感覚器と異なり、視床を経由せずに記憶を司る海馬や本能的な情動に関係する扁桃体を含む大脳辺縁系に直接、刺激を投射します。匂いが分からなくなる事はよくあります。風邪やアレルギー性鼻炎で鼻の通りが悪くなり、すぐに回復するものは心配ありませんが、初老期から次第に嗅覚が鈍くなる時に注意しなければならない場合があります。大半は加齢による嗅覚の低下ですが、その中に認知症が含まれています。認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症)、パーキンソン病では嗅覚障害が高頻度に認められます。記憶障害、見当識障害、失行、失語、失認などの認知機能障害、行動・心理障害などの症状が現れる前に、嗅覚障害が現れるので、早期発見や発症予測のマーカーとして注目されているのです。アルツハイマー型認知症の嗅覚障害の特徴は、何の匂いかを区別する同定機能障害が先行し、嗅覚閾値は遅れて低下し、認知機能低下とともにさらに低下します。墨汁・材木・バラ・ヒノキ・ニンニクの嗅ぎ分けで健常者と差がでたとの報告があり、また、香水・バラ・ヒノキ・カレー・インク・ガスの嗅ぎ分けで健常者と有意差を認めたため、認知状態を評価する指標とされています。パーキンソン病の嗅覚障害の特徴は嗅覚閾値、嗅覚同定機能ともに低下し、嗅覚同定障害が特徴的との事です。診断は、匂いの元の通り道が塞がっていないかをX―P、CT、電子スコピー、静脈嗅覚検査、MRIなど用いて検査します。器質的な疾患があれば、鼻閉を改善する治療を先行し、回復が無く、嗅神経の障害が示唆されたら神経賦活剤等を追加すると共に、精神・神経科的な認知機能を検査していただきます。耳鼻科領域では、難聴・バランス障害・睡眠障害・無呼吸症候群・嚥下障害などの認知症リスクに関係した症状も併せて診させていただきます。

認知症早期であれば、精神・神経科で発症を遅らせる薬もありますので、ご相談下さい。また、嗅覚は鍛えることができます。調香師やワインのソムリエの方は匂いをかぎ分ける訓練を続ける事で、嗅覚がより研ぎ澄まされると言われます。ラベンダーやオレンジ、レモンなどの精油を使ったアロマテラピーは、変性過程に入った嗅神経を改善させる作用がある事が分かってきました。嗅覚リハビリテーションは、バニラ、ユズ、モモ、カラメル、バラ、レモンの匂いを一日2回、かぎ分け続ける事により嗅覚障害が改善してきます。欧米の嗅覚障害治療の大家は、ローズ、レモン、グローブ、ユーカリ、コーヒー、カルダモン、パイナップルミントを一日2回、嗅ぎ分ける訓練を勧めています。

花香(ラベンダー・バラ)、果実香(エーテル・洗剤)、樹脂香(テレペンチン・樹脂)、薬味香(シナモン・ナツメグ)腐敗臭(糞・腐った卵の匂い)、焦臭(タール)などの異なった匂いを日頃からかぎ分ける訓練をしていると嗅覚障害を予防できる、更にはある種の認知症の発症を遅らせることになると思われます。

無喉頭の方には、もう一つ試練があります。永久気管孔で呼吸している為に、鼻への気流が無く、嗅覚が正常の方でも匂いを感じづらくなっています。匂いの元に鼻を近づけて、手で煽ぐのも一法ですが、「悠声会のHPに、無喉頭の方々の匂いを嗅ぎ分けるための「嗅覚リハビリテーション」が掲載されていました。

唇を閉じたまま、舌先を前歯か歯茎に固定し、舌後方を下方にポンプの要領で早く動かすことで、空気を鼻から吸いこもうとする方法で、あくびを噛み殺す要領だそうです。匂いを嗅ぎ分けるのが、苦手な方は、お試しください。

ちなみに、我が家の家庭菜園(別名¨ほったらかしハーブ畑)には、サンショ、チヤイブ、スイートバジル、パクチー、ルッコラ(ロケツト)、ローズマリー、パセリ、ニラ、ミョウガなどが生えていて、庭には、バラやラベンダーなどの花があるので、晴れまたは曇りの日には、それぞれの匂いを嗅かぎ分ける訓練をして、認知症発症予防また発症遅延を試みようと思います。雨の日は、そうそう、ワインの色々な香りをかぎ分けるのも認知症発症予防になるという事でしょうか……。

仕方がないな―、雨降りの今宵は、クロアチア土産のワインでも開けてみるとしますか。