北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

札幌医大36


新しい時代を迎えて

札幌医科大学耳鼻咽喉科学講座

教授 高野賢一

 

昨年の平成30年11月より、氷見徹夫名誉教授の後任として、札幌医科大学耳鼻咽喉科学講座の教授を拝命いたしました。北鈴会の皆様には、私が医師として駆け出しの頃からお世話になっておりますが、あらためてよろしくお願い申し上げます。

医療業界に限らず、昨今のテクノロジーの進歩は目を見張るものがあります。令和の時代に入り、こうした技術進歩はますます加速していくものと思われます。AI(人工知能)やIoT(いろいろな物がインターネットに繋がって、物どうしがあたかも意志をもったようにコミュニケーションをすることです)といったことばは、皆さんも新聞やテレビなどでお聞きになったことがあると思います。たとえば、最近普及してきているロボット手術は、今のところはあくまで外科医が操作して行うものですが、近い将来、外科医がロボットの助手となり、AIを備える手術ロボットが執刀医として手術する、そんな時代が来るかもしれません。あるいはIoTにより、家にいながらにして外来診察を受けたり、スマートフオンが病気を診断してくれたり、そんな時代も決して遠くはないと思います。

最近、ある有名な科学雑誌に「脳活動を音声に変換する解読装置」について論文が報告されました。これは神経疾患などによって、ことばを発することができなくなった患者さんの顎や喉頭、唇や舌の動きに関する脳内の信号から、その患者さんの音声を合成するという技術です。まだ課題は多いようですが、こうした技術が実用化されたら、喉頭癌をはじめ様々な原因によって音声を失った方にとって、大きな福音となる可能性があります。

21世紀に入り、かつて手塚治虫が描いていたような世界が、現実になってきたわけです。その一方でAIなどが活躍する近未来は、どこか味気ないもの、機械的な冷たいものといった印象をもたれる方も多いかも知れません。でもよく考えてみると、洗濯機や自動販売機、自動改札機など、すでに人間に代わって仕事をするロボット技術というものは、もうすでに私たちの日常の一部になっていて、もはや欠かすことができないと言ってもいいでしょう。ある科学者が、介護へのロボット技術導入についての議論の際、排便後のお尻を拭いてもらうのは、オジサンがいいか、ウオシュレツトがいいかと言っていましたが、確かに……。

科学技術の進歩が医療を大きく変えつつありますが、患者さんにとって少しでも福音となる技術が開発、実用化されていくことを切に望みますし、私たちも尽力してまいります。そして、どんな時代になろうとも、医者と患者さんとの関係が何よりも大切であることは変わりませんし、私どもも医者としての腕を磨き続けなければならないことも変わりません。

末筆となりましたが、北鈴会のますますのご発展と会員の皆様のご健勝を、心より祈念申し上げます。