北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

医療大学36


喉頭観察法の変遷・軟性内視鏡


北海道医療大学心理科学部言語聴覚療法学科
 教授 西澤 典子


私は、北海道医療大学リハビリテーション科学部というところで、言語聴覚士をめざす学生の教育にたずさわっております。北鈴会の皆様には、喉頭摘出者の福祉のためにご尽力いただき、特に発声教室を全道で展開してくださっていることに、リハビリテーションにかかわるものとして心から感謝申し上げております。さらに、本学言語聴覚療法学科の学生教育のために、毎年指導員を派遣していただいており、これについても改めて御礼を申し上げたく存じます。言語聴覚士は患者さんが喉頭癌の治療のために病院に通院あるいは入院をされている間に、深くかかわり、ことばを含めた無喉頭での生活の質を向上させるために取り組まなければならない専門職ですが、実際に学生が無喉頭の方から親しくご指導をいただく機会は少なく、無喉頭話者に直接お会いするのも、北鈴会のご指導の時が初めてという学生が多いのではないかと思います。

さて前回まで喉頭の観察方法というテーマで寄稿させていただきましたが、今回は、発声している声帯をスローモーションで観察することについて書かせていただきます。声帯は左右から接近する二枚の襞のようなもので、装の隙間を狭くしておいて間に空気を通すと襞と襞がうち合わさって、空気を振動させ、声になります。木管楽器のリードが音を出すのと同じしくみです。左右の声帯がうち合わされる頻度が声の高さを決めます。喉頭発声者の話し声では、男性がほぼ1秒間に100回、女性が200回の頻度で振動が起こりますので、話し声の高さは男性が100Hz、女性が200Hz程度ということになります。無喉頭発声者では、個人差がありますが、一 般に振動の頻度は男性の喉頭発声者よりも一 段とゆっくりになりますが、それても―秒間に50回前後(約50Hz)です。このような速さで振動している粘膜は、内視鏡で観察しても、ぼやけてしまって、何が起こっているのか見ることができません。そこで、ストロボライトを利用して振動をスローモーションで見るという工夫が昔から行われてきました。大まかな原理を図1、図2に示します。



とえば1秒間に100回の規則的な振動をしている声帯に、同じく1秒間に100回点滅するライト(ストロボライト)をあてると、動きの一点だけが照らされることになりますので、声帯は止まって見えます(図1)。そこで、ライトの点滅周期を少しだけずらして、例えば1秒間に95回の点滅としてみると、照らされる位置が少しずつずれていきますので、声帯はスローモーションで振動しているようにみえるわけです(図2)。これは喉頭ストロボスコピーという検査法で、声の障害の診断には大変役に立つ方法です。

無喉頭の方の発声でも、振動部の動きをスローモーションで観察するためにストロボスコピーは有効です。しかしこの仕組みは、観察する部位が規則的、周期的な動きをしていることが前提となっています。

無喉頭発声(食道発声、シャント発声)では、ときとして、不規則な振動が主体となることがあり、このような場合には、1秒間に4000〜15000コマの速さで撮影してスローモーション画像を作る「ハイスピードヵメラ」が役に立ちます。