北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

熊井医師35


食物アレルギー・OASについて


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座臨床指導教授
医療法人社団くまいクリニック
理事長・院長 熊井 惠美


 4月5月と続いたシラカンバ花粉症も終息し、夏のイネ科花粉症の季節になりました。花粉と共通抗原を有する果実・野菜・ナッツ類などを食べると口や咽喉が痒くなる口腔アレルギー症状群(OAS:Oral Allergy Syndrome)のある方は、花粉が飛んでいなくても症状が出るので要注意です。

 今回は、食物アレルギーとOASについて少し詳しくお話します。食物アレルギーの発生機序は、ほとんどが血清中のイムノグロブリンE(IgーE)が関与して起こります。臨床的には、1.新生児・乳児―消化管アレルギー:新生児・乳児期の粉ミルク(牛乳)に対するアレルギー反応で、耐性が獲得されると良くなってきます。2.食物アレルギーの関与するアトピ―性皮膚炎:乳児期の鶏卵、牛乳、小麦、大豆などによるアレルギー反応で、多くは耐性が獲得されます。3.即時型症状(奪麻疹・アナフィラキシーなど):乳幼児期では、鶏卵、牛乳、小麦、そば、魚類など、学童期から成人期では、甲殻類、魚類、小麦、果物類、そば、ピーナッツなどに反応し、鶏卵、牛乳、小麦、大豆によるものは耐性が獲得されます。4.特殊型:a.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA:Food Dependent Exercise Induced Anaphylaxis):学童期から成人期まで、小麦、エビ、力ニ、などを食べて数十分後の運動時にアナフィラキシーを起こすもので、重篤な場合は死亡することがある極めて危険な病態です。b.口腔アレルギー症候群(OAS):学童期から成人期にかけて花粉症があり、果物・野菜・ナッツなどを食べると起こる症状で、なかなか治ることは難しい病態ですが、コントロールは可能です。

 IgーEを介さない食物アレルギーも報告されてきています。小麦、牛乳、まれに貝類(あさり)、そば、卵黄などが原因で起こる消化管症状(腹痛、吐気、繰り返す嘔吐)でFPIES(Food Protein Induced Enterocolitis Syndorome)と呼ばれます。全国的規模の症例の収集と調査で、数年後には全貌が解明されると思います。

 もう少し口腔アレルギー症候群(OAS)のメカニズムついて説明します。その前に「感作」という言葉について説明しておきましょう。我々の体内で免疫応答が確立されていれば、抗原(原因物質)が体内に侵入すると、自分のものではないと認識して、その物質に対するイムノグロブリンを作り、同一抗原の再侵入時、速やかに排除できるように準備します。これを感作された状態と言います。

 OASのメカニズムですが、@食物による消化管感作(クラスT食物アレルギー):消化管が食物によって感作されていて、食物により誘発されるOASで、乳児期に多く、既往歴としては植物性以外(鶏卵、牛乳、魚など)のクラスI食物アレルギー・アトピIL皮膚炎があり、原因物質は、キウイ、メロン、オレンジ、トマトなどです。A環境抗原との交差反応(クラスU食物アレルギー) a.花粉―食物アレルギー症候群:気道粘膜が花粉により感作されていて、口腔咽頭粘膜が食物により誘発され、学童期から成人期に見られるOASの典型で、既往歴は花粉アレルギーがあり、原因物質は、花粉飛散と関連あるので地域性があります。シラカンバ花粉症では、バラ科のリンゴ、ナシ、モモ、プラム、イチゴ、ビワなどですが、各花粉症によリセロリ、メロン、キウイ、ナッツ類など原因物質は多数あります。バラ科の果物は、熱を加えると抗原性が弱まるので、痒くなく食べられることがあります。b.ラテックスーフルーツアレルギー症候群:気道・皮膚・粘膜がラテックス(生ゴム)により感作されていて、口腔―消化管粘膜が食物により誘発されるOASで、全年齢に起こり、既往歴はラテックスアレルギー、原因物質は、バナナ、キウイ、アボカド、栗などです。アナフィラキシーショックを起こしやすいので注意を要する病態です。熱を加えても抗原性は変わらないので、原因物質を使った加工食品(ケーキやジュースなど)でも症状がでます。B食物による経皮・経粘膜感作:皮膚・粘膜が食物により感作されていて、口腔―消化管粘膜が食物により誘発されるOASで、全年齢に起こり、アトピー性皮膚炎、湿疹、鼻炎、花粉症などの既往歴を有し、原因物質は、小麦・米・大豆などの穀類、キュウリ、 ニンジン、トマト、レタス、チコリなどで、OASからアナフィラキシーまで多彩です。小麦の成分を微細化した物質が入った石鹸を使い、顔の皮膚炎が多発し、大問題になった事件がありました。それを契機に、小麦の経皮的抗原感作が証明され、他の物質でも経皮的抗原感作が起こっている事が分かりました。ラテックスも同様ですが、重篤なアナフィラキシー症状を起こすので、既往歴のある方は、専門医と相談して十分な準備・対処法をお願い致します。

 無喉頭の皆様におかれましても、アレルギー素因を持ち、気道、咽喉頭―消化管粘膜、皮膚から何らかの物質で感作されていれば、誘発物質の侵入によって、前述の症状が発現する可能性があります。少しでも怪しいと思われたら、専門医へご相談ください。

 今夏も、網走から斜里までのサイクリングに参加。もう一日時間があれば雄武から斜里までなのですが、オホーツクの海風を頬に受け自転車を走らせます。皆様も如何ですか。気持ち良いですよ。あ―爽快、なんて爽快、とっても爽快……やっぱり爽快。疲れはてますが……。