北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

旭川医大35

免疫療法ーがん免疫療法




旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
教授 原渕 保明

  北鈴会の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

  今回は免疫療法というタイトルでお話しをしたいと思います。私たちの身体は免疫によって発生したがん細胞を破壊します。しかし、免疫が弱かったり、がん細胞が免疫にブレーキを掛けたりするとがん細胞を異物として排除できないことがあります。免疫療法は、免疫細胞の機能を高めてアクセルを踏むような治療法と、がん細胞が免疫にかけたブレーキを外す治療法です。近年注目を浴びているのが免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)です。ニボルマブは後者のブレーキを外す治療です。がん細胞が表面に作るPDーL1という物質が、T細胞のPDー1受容体と結合すると、免疫細胞がうまく働かなくなりがん細胞を攻撃なくなってしまいます。オプジーボ(抗PDー1抗体)は、がん細胞のPDーLlと、T細胞のPDー1受容体との結合を阻止し、T細胞ががん細胞を攻撃する力を強くします。本邦では2014年7月に悪性黒色腫に対して承認されたのを皮切りに、非小細胞肺がん、腎細胞癌、胃がんでも承認され、頭頸部癌でも2017年3月24日に承認されました。適応は再発/遠隔転移を認め根治治療が困難な症例である。免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果の特徴として長期にわたる腫瘍増殖抑制(durable response)が挙げられます。しかし、その恩恵を受けるのは一部の症例であることを忘れてはいけません。大半のがん腫において治療患者の約2、3割にしか恩恵が得られないことが判明しています。今後は、まずどういう症例で治療効果があるかバイオマーカーを見つけることです。バイオマーカーとして期待されているのがPDーLlの発現です。PDーLlの発現が臨床効果と相関していることが報告されている一方で、PDーLl発現と相関が見られないがん種や、PDーLl陰性例でも奏功例が見られるため、現時点では補助的な指標とされています。また、治療効果の向上を目指して、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした従来の治療との併用療法が世界中で進められており、2015年に進行悪性黒色腫に対してニボルマブとブとイピリルマブ(抗CTLAー4抗体)の併用がFDAの承認を受けており、国内でも悪性黒色腫と腎細胞癌に対して承認申請をしているところで、現在国内では免疫チェックポイント阻害薬単剤での使用しかできず、複合がん免疫療法は承認されていません。

  現在我々は頭頸部扁平上皮癌に対してのペプチドワクチン療法の研究をしております。ペプチドワクチン療法は前者の免疫療法です。直接腫瘍を傷害するのはキラーT細胞であり、がん細胞にあるアミノ酸配列から特異的なキラーT細胞を誘導することが可能な10個程度のアミノ酸配列であるペプチドを同定し、そのペプチドをワクチンとして投与する方法です。ターゲットのペプチドをこれまでに複数同定し、実験室の段階では有効な効果を確認しております。しかし、キラーT細胞に対するワクチン単独では抗腫瘍活性を有する十分なキラーT細胞を惹起できません。現在はペプチドワクチンの実用化に向けて、相乗効果のあるアジュバンド(補助薬)を模索しているところです。

  最後になりましたが、皆様の日々のご協力に心底より感謝を申し上げるとともに、今後の北鈴会の益々のご発展と会員の皆様のご健勝をご祈念申し上げます。