北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

熊井医師33


無喉頭と運動療法


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座臨床指導教授
医療法人社団くまいクリニック
理事長・院長 熊井 惠美


 飽食の時代、食べるものがなく、ひもじい思いをする事がないのは有り難いことです。「もったいない」精神が染み付いている我々は、ついつい食べ過ぎてしまう傾向にあります。食べた分だけエネルギーを消費すればよいのですが、身体を動かす機会が減っている方も多いと思われます。その結果、腰周りが太くなり、メタボリック症候群の一歩手前になってしまいます。

医師から「運動して下さい」と言われた時、さて、何から始めたら良いのでしょう。一番推奨されるのは歩く事のようです。背筋を伸ばし、両手を前後に大きく振りながら、時速6qを目安に、早足で30−40分間、週に4、5回程度、継続すれば効果は上がるでしょう。

ただし、体重が重いと膝に無理がかかり、かえって悪影響がでることもあります。「歩けないから運動ができない」とおっしゃられる患者さんに対して、「負担にならず、あきずに毎日続けられる運動なら何でも良いのです。」と説明しても、なかなか実行は難しいようです。例えば、座ってTVを見ている時間があれば、両足を揃えて上に上げてください。余裕があれば上半身を30度くらい後ろに傾けて30秒から工分くらい保持して下さい。足を下ろして深呼吸を2、3回した後、この運動を10回程度繰り返します。このセ。卜を朝夕繰り返し、慣れてきたら保持時間を延ばしていくと、確実に体脂肪率は低下していくと思われます。スポーツジムに通うのも良いですが、自宅でできる事が長続きする基本です。素敵なダンベル(おもり)を持って上半身を鍛えている写真などを見る事があるかもしれません。ダンベル代わりに、家の中で手軽にできるのは、2本のペットボトル(500mlまたは350ml)に水を入れて両手に持ち、前に突き出して1分間保持、下ろして深呼吸、再び前に突き出し保持、を繰り返す。

同じように両腕を左右に開き水平の位置で1分間保持、下ろして深呼吸、を繰り返す。慣れてきたらペットボトルを持つたままラジオ体操やTV体操をやってみる事。TV体操の番組を見ていると立って体操する人と椅子に座ったまま体操する人がいます。これは立てない人でも座ったままできる運動を教えてくれているので、おおいに活用して下さい。

 会員の皆さまは、疾病などにより、やむを得ず喉頭を摘出した方々です。喉頭摘出により、残念ながら鼻を通らない乾いた空気が気管孔から直接、気管、肺へ入ります。声門が無いため、いきむ事ができないので、息をこらえて力を入れる事が難しいと思われます。その為、運動も、呼吸をしながらのものに限られます。

いわゆる有酸素運動です。喀痰排泄の為に必要な腹式呼吸を鍛錬する意味で、散歩、ジョギング、体操に加えて自転車はどうでしょう。さわやかな風に吹かれて、走るよりは疲れず、思いの外、遠くまで行く事ができます。少々体重が重くても膝に無理がかからず、脊柱間狭窄があって歩行が難しい方でも、前屈する乗用姿勢では痛みが起こらず、移動可能と思われます。

 旭川には石狩川、忠別川、美瑛川、牛朱別川、永山新川などが流れていて、それらの河川敷には自転車道路が整備されています。自動車と伴走しないので安全に走行できます。神居古潭(今は嵐山まで)から上川までのロングライトや東神楽森林公園、忠別ダムまでの自然豊かなサイクリングが楽しめます。札幌をはじめ各地の自転車道路を巡る旅も長期休暇には可能でしょう。近頃、各地でサイクリングのエベントが催されているようですが、私も今年で35回目になる雄武から斜里までの212qを2日間で走破するインターナショナルオホーツクサイクリングに行ってきました。日程と体力の都合上、網走から斜里までの1日コース41qを走るのは、今年で3回目になります。小清水原生花園で咲く、はなます、エゾキスゲ、エゾスカシユリなどの脇を、オホーツクの風に吹かれて、気持ち良く汗をかいて走るのは当分やめられません。皆様もいかがですか?

 当地、旭川で、去年から挑戦している事があります。北の大地でよく育つジャガイモは家庭菜園でも主役と思われますが、あえて、さっまいもを栽培する事に挑戦しています。札幌では育てる事が可能と聞いて、昨年から始めました。品種は、関東85号とコガネセンガンを掛け合わせたベニアズマで、関東地方では主流のようです。我々はさつま(薩摩)いもと言いますが、鹿児島の人は、から(唐)いもと言います。アルコールを作るために、大切な米の代わりに、芋を利用したのが、栽培が拡大された理由だそうです。荒地でも育つという理由で、江戸時代、大飢饉の関東にもたらされた事は日本史で習ったと思います。そのベニアズマを旭川で栽培するには、問題が多々あります。苗の入手、植える時期、寒さ対策、日照時間対策など、大変手間かかかります。昨年は、15cmほどの細い芋が数本取れただけですが、味は、しっかりさつまいもでした。

今年は昨年の教訓を生かして再チャレンジ中ですが、放任家庭菜園、どうなることやら、乞う、ご期待です。

 さて、畑の水遣りも済んだし、天気も上々、今日はいつもと違う河川敷を走るとしましょう。