北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

北大33


喉頭がんの治療

北海道大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

 教授 福田  諭


 昨年に引き続き今回も、「最近の喉頭がんの手術法の傾向などについて」というご依頼が、松永雅晴会長ならびに山下光男管理部長よりありました。1年間で革新的な進歩はなく、昨年とダブル部分もありますが書かせて頂きます。

 喉頭全摘術は1873年当時ウィーン大学の回吊O訃教授(胃全摘も初めて行っている)によって初めて行われ以来140年以上が経過しました。進行喉頭癌に対する外科的標準治療として今でも行われている術式です。喉頭全摘による声帯喪失、永久気管孔、鼻腔粘膜の萎縮・嗅覚障害などの機能障害もありますが、進行癌に関しては今でも素晴らしい治療法であると私は考えています。インターネ。卜等々を通じて情報が氾濫する中、患者さん・ご家族は判断に迷うと化学放射線療法(喉頭をとらない)や部分切除(喉頭をとらない)を選択される方もおられます。しかし、根治性、誤嘸が皆無であること、二次的音声獲得術の発達等により、私は非常に良い選択枝と考えています。米国のかなり古くからの統計で、Hoffmanらは、喉頭がんT3に対して、喉頭全摘術が段々減ってきていること、それにつれて生存率も減ってきていることを警鐘的に報告しています。部分切除に比べ少し余裕を持って切除断端を決められることなどが良い成績につながっていると考えます。

 ただ昨年も書いたとおり全摘の根治性を維持した機能的に低侵襲な喉頭温存手術が注目されています。

 昨年5月中旬に日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会かおり、パネルディスカ。ション「頭頚部癌治療に対する低侵襲治療の新展開」の司会を務めさせて頂きました。内容は「喉頭機能温存手術」、「経口的咽喉頭癌切除術」、「化学療法の進歩」、「放射線治療」であり、最新の知見に関して講演と議論が行われました。喉頭機能温存手術ですが仏グスタフールーシーがん研究所頭頚科のリュボワンスキー教授が、喉頭亜全摘術198例の成績を1994年に札幌で講演されました。これ以降日本でも徐々に広がり、100例近くの経験から現在の処、亜全摘の最も良い適応は深部型T2と限局型T3である旨結論されました。経口的な手術‐拡張型直達喉頭鏡、硬性ビデオ内視鏡、腹腔鏡用組子などを組み合わせたラリンゴマイクロサージェリーの発展型術式と言えるTOVSについては声門上・下咽頭のTI、T2、一部のT3病変を対象に経口的に順部外切開を加えることのない低侵襲治療であるとされました。こうした術式を含め、討論では術後の音声の質、誤嘸、生存率など議論がありました。適応と限界に議論の余地は残りますが、喉頭癌特にT3の治療戦略上工つの選択肢にはなってきたと思われます。

 その他、経口的ロボット手術、化学放射線療法、分子標的薬、放射線治療そのものの進歩(重粒子線、陽子線、動体追跡)などについても意見が交わされました。医工学を含む時代の進歩により今後ますます低侵襲治療・個別化治療をキーワードとして治療の流れになっていくものと思われます。

 一方で、医師側は常に真の意味での機能温存(食事時間、外食可能かどうか、誤嘸など)、晩期副反応のチェックや対応、クオリティーオブーライフ、クオリティーオブーサーバイバル(キャンサー・サーバチバー)、長期生存率などについても常に念頭においていかなければなりません。

 以上簡単ですが「最近の喉頭がんの手術法の傾向について」につき、昨年とダブるところがございますが記させて頂きました。

 最後になりますが、私自身来年3月で定年となります。長い間北鈴会の皆様には大変おせわになりました。皆様方の益々のご健康、ご活躍、会のさらなるご発展を心より祈念いたしております。