北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

北大39


北鈴会のみなさまへ


北海道大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室

教授 本 間 明 宏

 

新型コロナ感染症も少し落ち着き、本来の生活に少しずつ戻りつつありますが、北鈴会のみなさまにおかれましては、いかがお過ごしでしょうか。

昨年の北耳報には「このような状況でもがんに関する研究は継続して行われており、免疫チェックポイント阻害薬のほかにも有望な新しい薬剤、手術器械、放射線治療が次々と開発されております。近い将来に、実際に使えるようになり、みなさまにご紹介できることを私も楽しみにしています」と書きましたが、新たにご紹介できる治療が出現しました。新聞などでもたびたび取り上げられていますが、急速に身近なものとなったゲノム医療について少しお話しさせていただきます。

「ゲノム(genome)」とは"gene(遺伝子)"と集合をあらわす"-ome"を組み合わせた言葉で、生物のもつ遺伝子(遺伝情報)の全体を指す言葉で、遺伝子や遺伝子の働きを制御する情報などが含まれています。私たちの体は、たくさんの細胞から成り立っていますが、その細胞が際限なく増殖をはじめ、まわりの組織や他の臓器に入り込むのが「がん」です。それは、「遺伝子」が変化(変異)することにより発生します。

がんゲノム医療は、がんが発生した臓器ではなく、がんの原因となる遺伝子の変異に基づいて診断・治療を行う医療で、最近、急速に発展・普及しはじめています。

みなさまのなかには抗がん剤の治療も受けた方も多くいらっしゃると思います。おそらく担当医から例えば、「喉頭がんで組織型(細胞の形)が扁平上皮がんなので、この抗がん剤が効く可能性が高い」というように説明され、治療を受けたと思いますし、現在も同じではありますが、近い将来には「この遺伝子変異があるから××という薬が効く可能性が高いです」という決め方ができる時代になろうとしています。

がんの部位、組織型にかかわらず、遺伝子変異に合わせて薬を選択するということです。たとえば、胃がんや肺がんの人と同じ薬剤が喉頭がんの方に使われたり、同じ喉頭がんの方でも違う薬剤が使われるようになるでしょう。

耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域では唾液腺がんや甲状腺がんで比較的多くみられる遺伝子変異に合った薬剤が最近、使えるようになっており、その遺伝子変異がみられる場合、高い効果が期待でき、そのおかげで検査や治療が変わりつつあります。

現在は、遺伝子を調べることができるのは限られた患者さんですが、ものすごい勢いでこの領域は進歩しており、会員のみなさまやご家族、お知り合いの方がすでにゲノム医療を受けた方もおられるかもしれませんし、これから、その恩恵を受けることもあるかと思います。しかし、本当は病院にかかることなく平穏な毎日を送れるのが一番です。みなさまのご健勝を心よりお祈り申し上げます。


がんゲノム医療について興味のある方は、インターネットで左記などをご覧ください。

がん情報サービス(国立がん研究センターが運営しているサイト) https://ganjoho.jp/public/index.html

そのほかにも「がんゲノム医療」で検索するとわかりやすい書かれているサイトが多くあります。