北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

くまい39


「コロナ禍中、変わりゆく日々」

医療法人社団くまいクリニック

理事長・院長熊 井 恵 美



人は、呼吸と摂食の為、鼻と口を使います。喉頭摘出術を受けられた方は、むせずに日から摂食できますが、外界のあらゆる細菌・かび・ウイルスなどの病原体が常に気管孔から出入りしています。病原体が体内に侵入し、害を及ぼさないように、鼻・咽喉には免疫防御機能が発達していますが、喉頭摘出者の方々は、十分に活用できません。風邪をひくと咽喉が痛くなり、咽喉が腫れて熱が出るのは、 一般的ですが、痰の増加や咳の増加に悩まされているのが現実と思われます。
従来、コロナウイルス感染症は存在し、感冒の一つの原因と考えられていました。2019年12月下旬、中国・武漢から始まり、世界的流行となった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、低温・乾燥下で感染拡大しやすく、肺細胞や神経細胞に親和性が強いため、重症・死亡例が多くみられます。ウイルスは日々変異を繰り返しているため、治療法の確立もなかなか難しいようです。3回目のワクチン接種が終わり、4回目の準備中ですが、未だ終息の兆しは見えません。
ウイルスの感染経路は、空気感染・飛沫感染がありますが、COVID-19は中間のエアロゾル感染と考えると理解しやすいようです。空気中に漂っていて湿度20〜30%で長く感染性を維持します。ちなみに1回の咳で700個エアロゾル、1回のくしゃみで4万個、1分間の大声会話で1000個エアロゾルが噴出すると言われています。マスクを着用し、ソーシャルデイスタンスを保ち、大声で会話しないという基本行動は、コロナ禍を乗り切るために、とても重要で大切です。
COVID-19発生当初、中国、英国で最初の死亡報告された医療従事者は、耳鼻咽喉科医でした。従来、患者様の、みみ・はな・のどを、数センチの距離で診察していた私共、耳鼻咽喉科医にも様々な変化が生じています。
一般的な耳鼻咽喉科で診断されるCOVID-19の特徴は、@66%の方が感染経路不明または申告ナシ、A欧米に比し嗅覚障害の有症率が低いB細菌感染合併例は少ないが4%の方に膿性鼻汁がみられる等です。
また、COVID-19の感染経路は、発症前の人から45%、有症状者から40% 環境から10% 無症状者から5%、と言われています。当院の通常の診療では、医師。看護師。医療スタッフの個人的な防御をより強固にし、ネブライザー治療は、極力控え、必要に応じて、個別の排気システム・オゾン発生装置・空気清浄機を駆使しております。電子スコピーなど各種検査時においても、感染防御を念頭において、医療従事者が感染しないことを前提に施行しています。
みみ・はな・のどの感染症を診察するプロの耳鼻咽喉科医が、COVID-19から逃げるわけにはいきません。当院では、2020年11月から、通常診療室とは異なった場所に一室を用意し、発熱外来を新設し、通常診療時間内に一人30分の時間枠を設け、対応しております。部屋の換気。空気清浄に十分留意し、医療従事者は個人防護具(N95マスク、帽子、手袋、フェースシールド、ゴーグル、不浸透性長袖ガウン)を身にまとい、鼻腔ぬぐい液によるCOVID-19抗原定性試験で、陽性・陰性を判断します。必要に応じて唾液によるPCR検査を行い、結果は翌日または2日後に連絡します。陽性者は、保健所に連絡し、行政の指示に従って隔離をしてもらいます。当院から症状に応じた対症療法薬を処方します。通常診療に支障をきたさない1日の受け入れ患者数は、6〜7名ですが、今年の1〜5月は、1日10名くらいに達し、通常診療の患者様をお待たせする結果になりました。2022年7月9日現在、発熱外来受診検査総数1078名、陽性者221名(20.2%)でした。2021年11月までは、月平均2〜3名で、お盆前後と年末年始に陽性者が増加しました。今年の1月から5月は、151名の陽性者(月平均30名)で10倍以上に増えています。
今年のお盆前後も要注意と思われます。重症例は少ないですが、若年者の嗅覚・味覚障害、ワクチン未接種者の感染増が目立ちます。花粉症の時期には、発熱・咽頭痛なく、くしゃみ。鼻水だけの症状で陽性者がでています。来院される全ての患者様がCOVID‐19感染疑いと考えて対処するしかないと肝に銘じ、緊張の日々を送っています。
コロナ渦中、喉頭摘出者の方々におかれましても、色々変化が起こったことと拝察いたします。COVID‐19ウイルスばかりでなく、あらゆる病原体が、気管孔から入り込むため、この2年半、鼻・□腔用マスクの着用に加え、気管孔人口鼻、エプロン・バンダナの工夫など、インフルエンザ流行期にも経験したことのないほど神経を使われていると思われます。気管孔用マスクのフィルター効果を高めると息苦しくなりますが、外科用マスクのひもを延長して装着する方法がネット上に掲載されていました。有用と思われますが、これからの暑い季節は、熱中症への対処法を怠りなく、感染防御にお気をつけ下さい。手洗いを励行し、不必要な外出は控え、人込みを避け、ソーシャルデイスタンスを保ち、長話をしないという基本行動は、常日頃守られていると思います。発熱・高熱が無くても体調不良を感じたら、鼻腔粘膜ぬぐい液や唾液のCOVID‐19抗原検査、必要に応じて、PCR検査を早めに受けましょう。またヽ外出制限が長く続くと、精神的なストレスが溜まってきます。家の中でできることは、みんなやり尽した感があります。これからは、自分が楽しいと思えることを存分にやり、良く食べ、良く寝て、免疫能を高め、万が一、COVID-19に感染しても、重症化せずに跳ね返せるだけの体力を温存する。これが、コロナ渦を乗り切る最良の方法と思います。