北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

医療大学前田38


北鈴会の皆さんへ


北海道医療大学リハビリテーション科学部言語聴覚療法学科
講師 前 田 秀 彦

 

 〜北鈴会の皆様との関わりを通して学ばせて頂いたこと〜

 北鈴会の皆様、如何お過ごしでしょうか?コロナ禍の中、発声教室の活動も制限されている状況とのことで、さまざまなところで日常活動が制限されていることを大変息苦しく感じております。日本に限らず、世界各地に喉摘者の方々のための患者会やリハビリテーション施設がありますが、各国グループ等のホームページなので活動状況を確認すると、日本と同じように様々な活動が制限されており、グループ活動の再開に苦心されているようです。今回、会員の皆様から会報誌の発刊をなんとか行いたいとのご意見を頂いていると土田会長よりお聞きした次第で、私で良ければと拙いながらも原稿を書かせて頂くことになりました。

 私が「北鈴会」様の発声教室に初めてお伺いさせて頂いたのが2010年だったと思います。もともと私は東区にある耳鼻咽喉科の専門病院で聴覚分野の検査等に従事しておりましたが、ご縁があり北海道医療大学心理科学部(現在はリハビリテーション科学部)言語聴覚療法学科の教授でいらっしゃった西澤典子先生のもとで勉強させて頂く機会を頂きました。当時、西澤先生は喉頭を全摘出などして食道音声で発声されている方々のための携帯型拡声器を開発しようというプロジェクトの初期研究を行なっていた時期でした。私は縁あってこのプロジェクトに参加する機会を得ることができたのですが、当時、「喉頭全摘出」、「食道音声」などは初めて耳にする言葉で、もちろん全く臨床で経験したこともなく、喉頭摘出後の代用音声も含めたリハビリテーションに関する知識なども皆無の状態でした。そこで、実際に食道音声がどのようなものか、また、喉頭摘出後のリハビリテーションがどのように行われているのかを自分の目で確かめるため、北鈴会の発声教室にお邪魔させて頂きました。私のような者を快く迎え入れて頂いたこと改めて感謝いたします。発声教室にお邪魔させて頂いて最初に驚いたのが、喉頭を摘出された患者さんのリハビリテーションは病院ではなく、手術などの治療を受けた当事者の方々が運営されている発声教室が中心であるということでした。しかも、当事者の方達が自ら指導者となって参加されており、毎週のように指導が行われているということでした。さらに驚いたことが、指導者の方々が使用される食道音声です。

 私はここで初めて食道音声を使用されている方々にお会いしたのですが、中には本当に食道音声なのかと思うような明瞭な食道音声の使い手の会員の方がいらっしゃったり、食道音声で連続的な発声をすることができ、その技術を駆使しカラオケで歌ったりできることを知り、本当に驚かされたことが思い出されます。また、発声教室に通われている指導者の方々、訓練を受けている会員の方々が本当にはつらつとされていて、この発声教室が単なる訓練の場ではなく、交流を通して悩みや喜びなどを共有する場となり、会員の皆様とご家族の生活の一部となっていることが素人の私でも少しは理解できたかと思っています。そして、私は発声教室にお邪魔させて頂きながら、喉頭摘出後の実態調査として、食道音声習得までの期間、食道音声に関わる現状の課題、喉頭摘出後のQOL(QUALITY OF LiFE:生活の質)などについて皆様からアンケートを取らせて頂き、論文としてまとめ、発表させて頂いたという貴重な機会を得ることができました。当時、私の申し出に対し快くアンケートに協力して頂いたこと、この場を借りて改めて感謝申し上げます。その後、私は現在の職場である北海道医療大の方に移動することとなりましたが、引き続き恵庭市青少年研修センターや札幌市保養センター駒岡での宿泊訓練にお邪魔させて頂きました。宿泊訓練では全道各地から参加されている会員の方々に熱心に指導されている風景を拝見させて頂いたり、訓練後の食事会などにも参加させて頂き会員の皆様やそのご家族の方とお話をさせて頂く中で評価やリハビリテーションの技術的なことだけではなく、患者心理的な側面からアプローチする必要性があることなどを学ばせて頂きました。皆様方との関わりを通して、リハビリテーション職養成校教員として如何に学生達と関わることができるか大きなヒントを頂いたと思っております。

 また、次世代を担う学生たちについても、松永元会長をはじめ、会員の皆様に直接ご指導頂きました。時に、学生たちと共に発声教室にお邪魔させて頂き、時に会長や事務局長に当大学の当別キャンパスまで足を運んで頂き講義をして頂くこともありました。学生達にとって、会員の皆様方の訓練の様子を見学したり、会員の皆様から直接お話しを伺うことは、将来リハビリテーション職を目指す自身の職業選択への確信と国家試験合格に向けての学業に対するモチベーション向上に繋がったことは言うまでもありません。喉頭摘出後のリハビリテーションの現状について、リハビリテーション職が主ではなく、当事者である会員の皆様方が担っているということは、教科書などでは知ることが出来ない現実であり、今後への課題であると学生自ら学ばせて頂いたことは貴重な経験だと考えられます。現在、コロナ禍で学生達が臨床現場に出る機会が奪われています。もちろん、さまざまな当事者の方々とコミュニケーションを取る機会を作ることも難しい状況です。少しでも現在の状況が改善し、見学などの許可を頂けるようになれば、また、学生を連れて発声教室へお邪魔したいと考えています。

 最後になりますが、コロナ禍において、会員の皆様方におかれましては平時より一層、感染等に注意をしなければならない状況が続き本当にご苦労されているかと存じます。会員様達の交流の機会も減り、閉塞感に満ち、心理的にも本当に息苦しい状況と思います。 一刻も早く、この状況が改善することを切に望みます。北海道各地域の発声教室の再開と会員の皆様方の今後のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。

 また、近いうちに必ず皆様方にお会いしたいと思います。その時はどうぞ宜しくお願い致します。