北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

医療大学前田30


「北鈴会の皆さんへ」

骨伝導マイクロホンを利用した 食道音声支援用携帯型拡声器の開発

北海道医療大学言語聴覚療法学科
 助教 前田 秀彦

 北鈴会の皆様いつも大変お世話になっております。私は北海道医療大学心理科学部西澤典子教授の下、骨導マイクロホンを利用した食道音声支援用携帯型拡声器の研究を現在行っております。先日、北鈴会の指導者研修会の席で、我々の研究について話をさせて頂く機会がありましたが、今回は我々の研究についてお話させていただければと思います。

 骨髄マイクロホンというのをみなさん聞いたことがあるでしょうか?
 骨髄マイクロホンは、人が話した時の声を頭蓋骨の振動から検出するものです。現在ある食道音声用携帯型拡声器は自分の声を検出するのに気導マイクロホン、つまり通常私たちが良く目にしている、普通のマイクロホンを使用しています。気導マイクロホンと骨髄マイクロホンにはそれぞれ長所、短所があるのですが、まずは気導、骨導という音を聞く経路、あるいは音を検出する経路についてお話したいと思います。

 普段、私たちが聞いている環境音、例えば、他の人の話し声、テレビの音、車の音、風の音とかいつも耳にしている音といのは外耳→中耳→内耳という経路を通って聞きとられます。
 これが気導という音を聞く経路です。音が聞こえるというのは空気が振動して圧力の変化が生じているということができます。その圧力の変化を鼓膜が感知します。それで、鼓膜の太鼓のような膜が振動し、その振動が耳小骨に伝わります。で耳小骨の振動が前庭窓という窓から内耳に伝わります。内耳というのは入ってきた振動を電気信号に変える働きのある器官です。この器官は凄く重要な部分です。それと、もうひとつの音を聞く経路の骨導についてお話したいと思います。例えば、「さ」という音を、機械を使用して振動に変換し、振動バイブレーターを使用して皮膚の上から頭蓋骨を振動させてあげます。そうするとその振動が内耳に伝わり聴覚が発生し、音を認識することができます。これが骨導という音を聞く経路になります。実際はもっと複雑な経路を通りますが、こういった聞こえの経路も実際には存在します。そして、実はいつも私たちはこの骨導音が混じった音を聞いています。簡単な例をあげて説明してみます。昔、テープレコーダーに自分の声を録音して聞くと「なんか変な声になっている!」といった事をみなさん経験したことはないでしょうか?
 「いつも聞いている自分の声じゃない!なんか変な声だ。」

 そういった経験を皆さんお持ちだと思います。しかし、録音した音声を他の人が聞くと、「いーや、それはあなたのいつもの声だよ」という。実はテープレコーダーに録音した口から発せられた声というのは、外耳→内耳という経路を通って我々は聞いています。つまり、先ほどお話しした気導の経路を通る音です。
 一方、自分自身が聞いている音、これはもちろん口から発せられた音が耳に入って気導音として聞いていますが、ところが、例えば「あいうえお」と発声したとき、自分の頭蓋骨を含め、体も振動します。例えば、喉とか肋骨とか。その振動が内耳に伝わりこれも音として感知しています。これが骨導音になります。つまり私たちが「あいうえお」と言って発声している時というのは口から発せられた音(気導音)と声を出した時に発生する体の振動が内耳に伝わる音(骨導音)の2つが混ざった音をいつも聞いていることになります。ふたつの音が混ざると、その音声の持っている周波数の情報が変わりますから、テープレコーダーの声と自分のいつも聞いている声が違うという現象が起きてしまいます。もちろん、食道発声している時も、骨導音は発生しています。我々は、この骨導音を利用した携帯型拡声器開発の基礎研究を行っております。

 現在、商品化されている発声支援装置は、単純な音量の増幅を目的としております。手持ち、またはヘッドセットなどで、唇の近くにおいたマイクロホンから拾った気道音声を、胸ポケットやウエストバンドなどにおいたスピーカーで拡声する方式となっています。
 東京の銀鈴会では、音量が小さいという食道音声の不便さを解消し、無理に大きな声を出そうとするためにかえって明瞭度が損なわれるのを防ぐためにも発声支援装置の利用を勧めていますし、使用する場面を選べば確かに便利なものと思われます。しかし、現在の発声支援装置をさらに使いやすくするために、いくつかの改善点が考えられます。それはQOLを低下させるヘッドセットやマイクロホンの使用、ハウリング、騒音環境下では雑音も同時に増幅してしまうなどの改善点です。この改善点を克服できるものとして、我々が考えているのが、骨導マイクロホンです。現行の骨導マイクロホンには長所・短所があります。現在、我々は、現行のマイクロホンの短所を補いつつ、長所を生かした新しい骨導マイクロホンの開発に向けて研究を行っております。研究については、北鈴会会員の皆様へ定期的に報告させて頂き、皆様のご意見を参考にしながら進めて行きたいと考えておりますので、ご協力頂けると助かります。今後ともよろしくお願いいたします。