北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

旭川医大30


北鈴会の皆様へ


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
 教授 原渕 保明

北鈴会の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。毎年この「北の鈴」を通じて、皆様の活発な活動や新しい会員の方々へのご指導の様子をお知らせ頂けることに、心より感謝申し上げます。

 さて喉頭の機能といえば、皆様がまず思い浮かぶのは「声」を生み出す発声機能ではないかと思います。しかしその他にも、喉頭には様々な機能が備わっていることをご存じでしょうか。呼吸の調節に関わる機能、物を飲み込む嘸下運動に関わる機能、そして異物が体内に侵入するのを防ぐ気道反射などの機能がそれにあたります。人間が呼吸をする際の通り道である気道の中でも、最も狭い部分が声帯のある喉頭です。炎症などで腫れた場合には呼吸困難が起こるデメリットもありますが、逆に狭いがゆえに外界から侵入する異物に対して、関所として重要な役割を果たしていると考えることができます。喉頭が関与する気道反射には、咳・くしゃみ・しゃっくり・呼吸停止などがあり、これらの反射の際には声帯は強く閉鎖して異物が気管や肺に侵入するのを防いでいます。一方で肋関筋や横隔膜などの呼吸に関係する筋肉は強く収縮して、侵入した異物を体外へ排出させようとします。我々の教室では以前から、喉頭が関与する気道反射について動物実験による研究を行ってきました。その結果、さまざまな鼻への刺激が喉頭においてくしやみなどの気道反射を引き起こすこと、そしてそれらの反射は脳幹の延髄のある特定の場所を中推して起こる反射であることが明らかになりました。

 鼻粘膜の表面には感覚を担当する神経が多く分布していて、この刺激が延髄で運動を担当する神経に受け渡され、鼻から遠く離れた喉頭や他の呼吸に関係する筋肉に一瞬で届いて気道反射を生み出すという、非常に精密な仕掛けが人間にはあるのです。鼻は気道の中でも異物や刺激物質が一番はじめに通る部分ですので、いねば見張り役で、刺激性の物質が通った際にはすぐに神経、延髄を通じて関所である喉頭に指令を送っていると考えることができます。また、喉頭自体にも感覚を担当する神経が多く分布しており、異物が喉頭まで到達した時にも鼻と同じように中枢神経を中継する経路によって咳反射などが起こることが知られています。このように喉頭は、一見離れて存在している気道の他の臓器(鼻、呼吸筋)などと密接に連絡を取り合っているのです。我々は、喉頭をはじめとする気道に関する研究を日夜行っておりますが、喉頭という臓器の奥深さに今でも驚かされることがあります。病気を治すには、まず病気になっている臓器の正常の状態をよく知らなければなりません。さまざまな喉頭の疾患の病態を究明し治療するために、我々は正常の喉頭の構造や機能も深く知る必要があります。まだまだ喉頭には明らかにされていない部分も多くありますので、治療法だけでなく、このような分野の研究も継続して行ってゆきたいと考えております。

 最後になりましたが、皆様の日々のご協力に心より感謝申し上げるとともに、今後とも北鈴会のますますのご発展と会員の皆様のご健勝をご祈念申し上げます。