北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

医療大学前田29


「北鈴会の皆様へ」

北海道医療大学言語聴覚療法学科
 助教 前田 秀彦


 喉頭摘出後の音声リハビリテーションは地域で活動する喉頭摘出者団体の活動によるところが大きいということは、皆様ご存じのことかと思います。そこで発声教室の始まりはいつごろかと調べましたところ、1949年(昭和24年の大阪大学医学部の医師と患者さんを中心とした阪喉会が最初の喉頭摘出者福祉団体との記述がありました。つまり創立されてから60年以上という長い歴史を持っていることがわかります。 その後、1985年に馬谷先生の報告では1981年の段階で全国に54の団体があったとの報告があります。

 さらにその14年後の1998年の坂倉先生の報告では、全国に約54の団体があり、1万1千人以上が所属していることがわかりました。 これらの調査からも、喉頭摘出後の音声リハビリテーションに、地域の発声教室が大きく貢献してきたということがわかります。

 ちなみに、北鈴会は創立が1964年(昭和39年)ですから48年になります。約半世紀に渡り、北海道における喉頭摘出後のリハビリテーションに貢献されてきたことになります。2011年度版の北の鈴によると、現在、北海道では全道9箇所北鈴会の発声教室で約400名の喉頭摘出者の方々が指導を受けているということです。また、函館には道南銀鈴会があるというのは皆様ご存じのことかと思われます。

 しかし、喉頭摘出者福祉団体の活動が大きいということは、逆に考えますと、臨床専門職がリハビリテーションに関わることが出来る医療機関は非常に少ないということが言えると思います。それゆえに、食道音声リハビリテーションの質向上や音声についての生活の質)向上に関する報告は、それほど多いとは言えません。私は一昨年、北海道の会員の皆様の食道音声習得に関することや日頃どのような不便やハンディを感じていらっしゃるのかを実際に調査いたしました。そこで今回、紙面をお借りしまして、少しですが紹介させて頂きたいと思います。対象としたのは北鈴会の食道発声教室通級者ならびに指導員の14名(男性13名女性1名)です。食道音声の習熟度は東京の銀鈴会基準を用いました。この基準で分類すると上級(多音節の連続発話が可能)7名、中級(1回の空気摂取で5〜7音節)3名、初級(1回の空気摂取で2〜5音節)が4名でした。まず、「食道音声の指導は主にどこでうけたか?」という調査では、発声教室が12名と圧倒的に多く、病院で指導を受けたと答えた方は2名のみでした。やはり、北海道における食道音声のリハビリテーションに対する臨床専門職の関わりは多くないという結果でした。

 また、「食道音声使用に伴う不満について」調査(複数回答可)したところ、習熟度が初級の段階ではことばの明瞭さ(3名/4名)や流暢な話し方などの音声表出(2名/4名)についての不自由さが指摘されました。また、上級になると声の大きさ(4名/5名)や、騒音下での会話(3名/5名)など声量についての不自由さが指摘されました。初級の方はことばの明瞭さや流暢な話し方など音声の表出についての不満があるということなのですが、上級の方では音声の表出は問題なく、声の大きさや騒音環境下で会話することなど、自身の声量の小ささについての不満が聞かれました。

 次に、喉頭摘出後の患者さん自身が自分の音声をどのように感じ、日常生活上どんな制約をうけていると感じるかを定量的に評価するために、ボイスハンディキャップインデックス(voice handicapindex:VHI)を使用して、音声のQOLについて質問しました。

 VHIは通常30項目からなり、機能的側面(たとえばなるべく電話をかけないようにするなど声の障害が及ぼす社会制約を問う項目)、身体的側面(話すと息切れする、喉頭の違和感などに関する自己認識を問う項目)、感情的側面(自分の声を恥ずかしく思うなど、自分の声に関する感情的反応を問う項目)に分類されている質問紙を使用します。いずれの項目も0(全く思わない)〜4(いつも思う)の5段階評価で判定してもらいます。つまり0は良い結果、4は悪い結果になります。今回はアンケート記入時の身体的疲労等を考慮し、より重要な10項目だけを使用するVHI-10(40点満点)というものを使用しました。VHI-10の回答が得られた9名の結果を示しますと、食道音声上級では平均20.4点/40点、中級は平均22.0点/点、初級は>36.0点/40点という結果になりました。食道音声上級者でも術後の音声QOLは中級者とほとんど差がなく、機能面や心理面でさまざまな不便を感じていることが明らかにされました。つまり、たとえ食道音声を自在に使いこなせるようなレベルに到達しても、QOL向上への様々な支援は必要であるということです。

 今後もリハビリテーションや会員同士の相互交流、情報提供等々に関して北鈴会の役割は大きいと思われますが、我々教育・研究機関においても、何らかの形で北鈴会の皆様へ貢献できればと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。