北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

熊井医師29


無喉頭と花粉症


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座臨床指導教授
医療法人社団くまいクリニック
理事長・院長 熊井 惠美

今年の旭川のシラカンバ花粉症は、花粉飛散量が少なく雨の日が多かったこともあり、症状があまり激しくなく、快適に過ごされた患者さんが多かったようです。それに比べ、イネ科の花粉飛散が早く始まり、夏の花粉症の方は例年よりも症状が長引いています。秋の花粉症は霜や雨の影響で、花粉飛散が比較的短期間に終わるので、病納期間が短くて済みます。雪に埋もれる白い季節に入ると花粉症がなくなるのが、北海道の特徴です。

花粉症の症状は、くしやみ、鼻水、鼻つまりの鼻症状に加え、眼のかゆみや流涙、結膜浮腫などの眼症状や咽喉のイガイガ感、止まらない咳などの咽喉頭症状、皮膚のかゆみなど多彩です。花粉症の治療は、症状が起こってから始める対症療法と花粉飛散前から行う初期(季節前)治療があります。症状を抑える多くの内服薬、点眼、鼻噴霧剤などがあり、個々人の症状に合わせて必要十分量を使うのが理想です。初期治療は、花粉飛散の2から4週前から内服薬(抗ロイコトリエン剤など)、鼻噴霧剤、鼻内レーザー手術などを行う方法で、花粉飛散中もほとんど症状の増悪が無く過ごす事ができます。一度、初期治療が奏功した方は、花粉飛散季節が爽快に過ごせるために、毎年、この治療を希望されます。ちなみにシラカンバ花粉症の方は根雪が解ける頃から初期治療を始めると効果的です。

無喉頭の皆様の中にも花粉症の方がいらっしゃいます。鼻腔内の呼気、吸気による気流の流れが無いために、大量の花粉が鼻腔内に入る事による鼻のかゆみは少ないと思われます。声門閉鎖が起こらないので、くしやみは起こりませんが、から咳がでてきます。眼のかゆみ、流涙や結膜の浮腫は、普通の花粉症の方と同じように起きます。涙に混じった花粉が涙道を通り、鼻腔に入ることによる鼻のかゆみや鼻水がでます。

鼻をかむことが難しいので、鼻水が咽喉に流れ込み、咽喉のかゆみやイガイガ感、違和感を起こします。鼻によるフィルター効果が無いので、呼吸に伴い、気管孔から大量の花粉が気道に入ってきます。そうなると、気道の違和感が増し、普段より咳が多く、長く続くようになり、疲も多く出てきます。喘息様の咳が続くようであれば、呼吸器科と相談の上、気道噴霧剤の使用も検討しなければいけません。今まで、花粉が直接皮膚から侵入するとは考えられていませんでしたが、加水分解された小麦粉エキスで皮膚から全身感作が起こった「茶のしずく」石鹸の例もあるので、花粉飛散の時期に皮膚がかゆくなる方は、要注意です。花粉飛散時期に外出する時には、帽子をかぶり、サングラスをして、気管孔前のエプロンを必ず着用しましょう。少し濡らしたほうが花粉吸着には効果的です。できるだけ皮膚の露出部を少なくして、花粉が吸着しにくい服装でお出かけ下さい。帰宅後は、外出着の花粉をよく払い、シャワーなどを浴びてから部屋着に着替え、室内への花粉の侵入をできるだけ防ぐ工夫が必要です。無喉頭の花粉症の方は、気道症状が多く、喘息と診断されているかもしれません。花粉飛散時期に、症状に合わせた対症療法は必要ですが、毎年症状が起こる方は季節前からの初期治療をお勧めします。