北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

旭川医大医師28


北鈴会の皆様へ

旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科
医師 小林 祐希

 北鈴会の皆様、こんにちは。お元気でお過ごしでしょうか。

 私が耳鼻咽喉科を専門として選択したひとつの理由が、頭頸部癌の治療に携わる科であることでした。喉頭癌や下咽頭癌を含め頭頸部癌は目に見える部位にできる病気であるとともに、食べること(摂食・嚥下)、話すこと(構音に直接かかわる病気であり、その治療に興味をもったことがきっかけにひとつでした。

 実際に医師として働きはじめてから、初めて喉頭摘出術の患者さんと接しました。癌であることを告知され、病気を治すために喉頭を失うということ、癌であることから治療前に考える時間も十分ではないことも多いです。喉頭を失うという選択を受け入れるために、患者さんやその家族の精神的サポートの大切さを実感しました。今までの自分の声を失うということは、その人のアイデンティティの一部を失うことと思われますが、病気を治すため、元気になるために喉頭摘出を受け入れるまでには様々な思いがあることと思います。患者さんはもちろん、ご家族の方も初めは大変なショックをうけておられますが、「先生、喉頭摘出手術うけるよ」と言えるまでには本当に多くの悩みや不安があるだろうと思います。
 私たち医師や看護師の立場から、術前にオリエンテーションをさせてもらいますが、そのときに大変お世話になっているのが北鈴会の皆さんです。術前患者さんが発声教室を訪問したり、場合によっては北鈴会の方が当院まで足を運んでくださり、喉頭摘出術についてや、術後の生活などについて、直接お話して相談にのっていただけること、またおどろくほど上手に声を出してお話している様子をみて、手術への不安が軽くなったり、前向きになったと感じ取れる患者さんを何人も見ました。
 また、術後に予想していたよりつらい思いをされた患者さんで、すこしずつ時間をかけて発声教室に行けるようになってからは、どんどん元気になり通院時に新しい声を披露してくださるかたも見ました。喉頭摘出した経験をもつ北鈴会の皆様だからこそできることで、私たち医療従事者がどんなに時問をかけて説明するより説得力があることと思います。

 近年、放射線と化学療法(抗癌剤)の発達とともに、頭頸部癌の治療は急速に臓器温存の方向に向かっているところです。しかし、患者さんのなかにはもともと持つ合併症や過去の既往症のために抗癌剤や放射線治療がおこなえなかったり、残念ながら放射線や抗癌剤の効かないタイプの腫瘍であったり、放射線化学療法後に再発してしまった場合には、今も喉頭摘出術は重要な治療法です。

 これからも喉頭摘出術をうける患者さんのサポートをお願い申し上げますとともに、北鈴会の皆様の体験や活動を参考に勉強しながら今後の診療に携わっていきたいと思います。