北海道喉頭摘出者福祉団体 北鈴会

旭川医大28


北鈴会の皆様へ


旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
教授 原渕 保明


 北鈴会の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 3月11目に発生した東北地方太平洋沖大震災により被災された地域の皆さま、ご家族、関係者の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
 今年は4月21日、22日に第23回日本喉頭科学会総会を旭川市で開催致しました。未曾有の震災発生から1ヶ月半も経たない時期での開催であり、中止もしくは延期の可能性も一時は考えました。しかし、こういう時期にこそ医師として診療技術、知識を高め患者さんに貢献することが大事であり、それが結果として日本の震災から復興にも貢献すると考え開催を決定いたしました。

 幸いにも東北地方からの大学、病院からの参加者も含め参加の取り消しは、ひとつもなく、300名を超す多数の参加者で盛大に終えることができました。学会の内容では、シンポジウムとして、「新しい喉頭麻痺治療へのTranslationalresearch」と題して、近い将来に臨床応用が期待される基礎研究の現状を活発に議論して頂きました。Translationalresearchとは、橋渡し研究とも訳され、基礎研究での結果を実際に患者さんに臨床応用する、もしくはその可能性のある研究のことです。当科の國部講師はこのシンポジウムに演者の1人として、当科で研究をすすめている喉頭ぺーシングについて発表されました。これは、喉頭麻痺になり声帯が動かなくなることが原因で呼吸困難となった患者さんに、声帯を開く筋肉に電気刺激を加えることで電気的に声帯を動かし呼吸困難を改善する技術です。心臓のぺースメーカーと似た様なものを喉に付けることを想像していただくと分りやすいかもしれません。現在、動物を用いた実験までは成功しており、数年後には臨床応用が可能となる可能性があります。これ以外にも、喉頭の筋肉を再生する報告なども他の大学から報告されました。このような電気刺激を用いた技術、再生医療、また更には移植医療を上手く組み合わせることで、失った喉頭の再生が可能になる可能性も出てくるかもしれません。

 この目標の達成には様々な困難が予想され、まだまだ時間は相当かかりそうですが、当科も含めて世界中の科学者、医師が研究を進めている最中です。このシンポジウム以外にも、研究成果、新しい治療方法など様々な発表が活発に議論され、成功裏に終えることができました。

 頭頸部癌の現在の治療に関しても、近年の医療の進歩には目覚ましいものがあります。頭頸部は、発声、嚥下、呼吸機能などの生命維持、生活の質(QOL)に非常に重要な臓器、それを支配する神経、血管が存在します。従来は癌を取ることを優先しこれらの機能を犠牲にせざるえないことが殆どでした。しかし近年は、これらの重要な機能を出来る限り保存した上で癌治療を行うことが重要となっております。当科でも2003年より超選択的動注化学療法を用いた頭頸部癌治療を行っております。これは、癌の栄養血管(末梢の動脈)にカテーテルを進めて、癌の非常に近くで高濃度の抗癌剤を投与する治療です。またそれと同時に、抗癌剤の中和剤を静脈より投与することで、多臓器への副作用を軽減するようにします。従来の抗癌剤の治療は、静脈から全身に投与し、その一部が癌に到達していましたので、癌のみならず正常な腎臓、肝臓、骨髄等の臓器の副作用も多く出現します。しかしこの超選択的動注化学療法では、そのような副作用の出現が少なく、かつ癌には高濃度の抗癌剤の投与が可能となります。よって従来の治療では治すことが出来なかった進行癌でも治療が可能となりました。しかし残念ながら、この治療法も完璧なものではありません。

 抗癌剤が効かない癌の患者さん、一時的に癌が消失しても再発するなどのこともあり、依然として、大きな手術を行わなくてはならない患者さんがおられることも事実です。今後は、より癌にのみ効果のある薬の開発などを進め、こういった患者さんを救うことができるようになることが我々の使命の一つと考えています。

 最後になりましたが、北鈴会の皆様方のますますのご健康、ご活躍をお祈りしております。